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第2期DIALOGUES展「かわのまち」レビュー
第2回DIALOGUES展「かわのまち」 レビュー

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 NICA(Nihonbashi Institute of Contemporary Arts)で開催されている第2回「DIALOGUES展~ダブルス×3連続国際展~」では「かわのまち」をテーマに、ジョン・ササキ(トロント・カナダ)と森田浩彰(東京・日本)による展示が行われました(キュレーター:嘉藤笑子)。

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 ジョン・ササキと森田浩彰は本展に先立ち、日本橋にある亀島橋(東京都中央区)の下で、水中ロボットを用いて川底に滞積している廃物を探索しました。朽ちた流木、石灰化したコンクリート塊、GREEN HOUSE製のDVDプレーヤー(未使用)、LANケーブル(緑)、タバコの吸殻が入ったプラスチック瓶、GIANT製のマウンテンバイク、SONY製のアンテナ付きラジオカセット、ピンク色のスカルが施された長財布、鉄製のパイプ、自動車用のゴムタイヤ、紺色の作業服(上着)、ガラスの小型モニターと思われるものなど、川岸に引き上げられたさまざまな廃物は、展示スペースを構成するファウンド・オブジェクト(発見されたもの[オブジェ])へと姿を変えて展示されることになります。また、亀島川で採取された水はペットボトルに封入され、「亀島川の水です。ご自由にお持ち帰り下さい」(“FREE WATER FROM KAMEJIMA RIVER”)という掲示とともに展示され、観衆には無料で持ち帰ることが許可されています。

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 展示スペースでは大型スクリーンに亀島川での一連の作業を記録したビデオ映像(約15分間)が映写され、引き揚げられた瓦礫や廃材をめぐって声をかけ合う2人のアーティストと協力者たち、そして時に差し挟まれる街なかの人々の面影とともに、亀島川周辺の風景を身近に感じることができます。水中ロボットからの映像をモニターで確認するジョン・ササキ、ノートパソコンと水中ロボットをつなぐコードを手繰りよせる森田浩彰、廃物を引き上げるダイバーたち、そして橋上から川岸を覗き込む歩行者たち。淡々としたカメラワークから眺められた亀島川の風景の向こうに、市民とアーティストたちの間に生まれる目に見えない緊張関係を見てとれるようでした。

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トークイベント「かわをめぐるアートのはなし」07/02/2015

 オープニングの翌日に社員食堂(Creative hub 131)で行われたイベント「かわをめぐるアートのはなし」では、ジョン・ササキ、森田浩彰、嘉藤笑子とともに、井出玄一(ボートピープル・アソシエーション)、藤井政人(国土交通省)、中崎 透(アーティスト)、武藤 勇(N-mark)が参加しました。「かわ」の現在的な状況について、それぞれのユニークな活動の視点から歴史、環境、行政規制などを題材にした議論が交わされました。

ジョン・ササキは日本との関わりを個人的な視点から振り返りながら、カナダと日本の「かわ」を巡る文化史的なエピソードを紹介しました。また、亀島川にかかる亀島橋を”ブリッジ”ということばに置き換えて象徴化することで、文化や歴史、人々をつなぐ架け橋として捉えていると話し、本プロジェクトをその「実践的なクリエイティヴィティ」として位置づけました。その一方で、森田浩彰は見えないものを見えるようにするというアーティストとしての存在意義に触れつつ、「かわ」を政治的に排除されてきたものや人々の歴史=物語を見直すための表象空間として見立てていきました。その後、嘉藤笑子はキュレーターの視点から、明治期以降の近代化と震災や戦災を経て、「かわ」が見たくないものを覆い隠す場所となっていったことに触れ、アーティストが「かわ」とともにアート作品をつくったり、アート・プロジェクトを行うことで、本来は誰のものでもない「かわ」の公共性を新たに描きなおせるのではないかと語りかけていきました。

 また、井出玄一が河川をボートでピクニックのようにめぐる「ボートピープル」の活動報告とともに江戸時代の「かわ」では人々が川辺に向かって商業活動を営んでいた歴史について話すと、藤井政人は水辺を基点としたまちづくりを提案する「ミズベリング」のプロジェクトの紹介とともに「かわ」にかかわるアート・プロジェクトなどから市民・企業・行政が協働して取り組むソーシャル・デザインの可能性を提示しました。さらに、中崎 透は「プロジェクトFUKUSHIMA!」で人々がもちよった生地をつなぎ合わせる「福島大風呂敷」、「水都OSAKA」や「黄金町バザール」などでの制作活動を振り返って、水や水辺にかかわるアート・プロジェクトの実際から見えてきた「かわ」をとりまく複雑な公共機関の管理体制や手続きを指摘したのに対して、武藤勇は現代アートを市民社会に息づかせる「中川運河リミコライン・アートプロジェクト」の活動報告とともに、市民や企業の関わりあいから広がるアート・ネットワークのつくり方について紹介しました。

その他にも、生活汚水や工業排水が流れ込む河川、村落などから排除された人々が住む川辺、ホームレス(浮浪者)がテントを広げて休む河川敷、あるいは東京オリンピックのために消えゆく未整備の護岸など、近代の都市生活において「かわ」が大衆生活を営む人々に対してネガティブな印象を与えるダークサイドとして認識されていたというエピソードがさまざまなかたちで語られ、「かわ」のもつ周辺性や境界性が浮かび上がることにもなりました。

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 トークイベントを振り返ったうえで、もう一度、展示スペースのファウンド・オブジェクトに眼を向けてみましょう。冷たく暗い川底から引き上げられた異物は江戸-東京-日本をめぐる歴史の証言となって、あらためて陽光の下に照らし出され、アートとして解釈されることになります。ファウンド・オブジェクトの布置を辿る観衆の歩みとともに、日本の近代史を織りなす都市空間と人々の関係性、あるいは「かわ」の文化や歴史は、思い思いの物語となって見なおされることになるでしょう。
 21世紀の「かわ」の水は、近代化を押し進めた20世紀と同じように不都合な真実を覆い隠す“禊ぎの水”であり続けるのでしょうか、それとも今は暗渠のように見えなくなってしまった「かわ」の可能性を新たに引き出す“救いの水”になるのでしょうか。アーティストから「フリーウォーター」として提供される亀島橋の水の使いみちと同じように、「かわ」をめぐるそこから先の物語は会場に訪れた観衆とともにあるのかもしれません。
(DIALOGUES展編集室/Art-Phil)
Photo by Michiko Isono
by a-a-n | 2015-03-18 00:01 | ドキュメント
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